医療法人は、医療法により認可、設立された法人であり、「会社」ではありませんが中小企業における非上場株式と同様の意味合いを持ついわゆる「持分」というものがあり、この「持分」を相続する場合、非上場株式と同様の評価方法によって相続財産として評価されることとなります。
さらには、中小企業の多くに認められている相続税、贈与税の納税猶予の特例も認められていないことからも「持分」の相続対策はかなり悩ましい問題となっております。
ただし、この「持分」については平成26年10月1日から平成29年9月30日までの間に厚生労働大臣の認定をうけることによって持分をなしに移行することができます。「持分」をなくすことにより、出資持分について相続税が課されないこととなり、それならいち早く「持分」をなしにしなくては・・・と考えがちですが、税法はそんなに甘くはありません。
相続税法第66条4項、いわゆる「みなし贈与」の規定にはしっかりその辺について謳われており、要するに本来医療法人における持分については、持分のある社員に対し退社時に持分に相当する金額を返還するか、医療法人解散時に残余財産を分配することとなっているが、「持分」をなくすことによってそれらの支払義務がなくなることから、持分を有する者から医療法人への贈与とみなされ、医療法人を個人とみなして医療法人に対し贈与税が課税されます。これは結局「持分」をなしにするという行為が相続税及び贈与税の負担を不当に減少させたことによるもので、裏を返せば不当に減少させたと認められないものであれば、これらの贈与税を回避することもできます。
ただし、その要件は、医療法人の同族親族関係者が役員等の総数の3分の1以下であることなど、社会医療法人の認定要件にほぼ等しいものであり、大多数の一人医師医療法人のオーナーからすると受け入れ難い内容となっており、今後も相続対策として持分をなしに移行することは考えづらいでしょう。
もし、この「持分なし」への移行があり得るケースとしては今まさに医療法人のオーナーに相続が発生した場合に、その出資持分について未解決であっても相続税申告期限内までに厚生労働省の認定を受ける(認定医療法人となる)ことによりそこから3年の間に「持分なし」への移行期間があることから、その間に医療法人が贈与税を払うか贈与税を払わないように不当減少要件をクリアする方策をとるといったことを相続人たちで解決する時間稼ぎをするケースくらいでしょうか。
昭和60年の一人医療法人制度創設から約30年、当時の設立ラッシュの真っただ中にいた医師たちの事業承継が今まさに始まろうとしています。
埼玉本部 菅 琢嗣
記事のカテゴリ:その他