この会話での「税務署に睨まれる」ということの本当の意味はどういうことなのでしょうか。きっと税務調査が入って、その行き過ぎた交際費支出が否認されるといったところなのでしょうが、そこまで行き着く過程はもっと奥の深いものであったりします。
そもそも課税庁側が否認をするには何らかの根拠をもって否認することになりますが、その根拠というのは国税庁通達であることが一般的なのでしょう。ただし、国税庁通達は納税者を拘束するものではないことから、納税者側としてはそれに対して反論をしていくことになるのですが、その時の反論根拠は場合によっては国税庁通達における解釈の相違や過去における判例、裁決事例などを反論根拠としていくことになるのでしょう。
ここで税務における判決と裁決の違いについて簡単に説明しますと「判決」とは裁判所としての税法解釈であり「裁決」とは国税不服審判所が示した税法解釈なのです。
上記のように税法解釈の相違があった場合に納税者側は課税庁側からの指摘事項に関して修正申告に応じなければ、課税庁側は「更正処分」を行います。その処分に納得がいなかない場合、いきなり裁判所に訴訟の提起をするとなると全国各地で膨大なる税務訴訟が行われ混乱をきたすことからまず、国税不服審判所へ異議申立てをし、そこで国税不服審判所の税法解釈であるいわゆる「裁決」が示され、それにも納得がいかない場合にはじめて税務訴訟が提起され、その後は地裁で不服申立てとなると高裁へ控訴し、さらには最高裁へ上告し、最終的な税法解釈いわゆる「判決」が確定します。
税務上の見解の相違については過去に類似した「裁決」や「判決」の事例が集まった「裁決事例」や「判例・裁判例」を反論根拠としますが、その中でも最終的なジャッジである最高裁での判決が最も強い反論力があります。
課税庁側と納税者側の見解の相違におけるせめぎ合いも最高裁での判例を持ち出された時点で勝負ありなのです。これら判例や裁決事例は法律として明記されていなが「法」として事実上納税者を拘束することができる、いわゆる「不文法」であり税務の実務においては法と同様の拘束力があります。当然のことながら、もし最高裁で納税者側の主張が勝った場合すぐに国税庁通達が変わるといったこともよくあり、最近では財産評価基本通達の一部が改正となった最高裁の判決などは記憶に新しいところです。
ただし、税務訴訟において納税者側の勝利する確率は低く敗北後の延滞税等の追徴課税を考えるとどこかで「落としどころ」を模索していかなければならないのも事実なのかもしれません。本来は税務判断における見解の相違も修正申告に応じるかそうでないかも、そこまで考慮てから判断すべきなのでしょう。
埼玉本部 菅 琢嗣
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