実務において土地建物の売買契約書を目にする機会も多いのですが、中には土地と建物の対価が契約書に区分されずに売買されているケースを見かけます。
これは実のところ少し厄介な問題が潜んでおり、当事者同士で土地建物それぞれの価額を決定して契約書に記載していれば税務申告をする側としてはその比率に従い粛々と申告するだけなのですが、場合によってはその比率を税務申告する側主導の提案決定に委ねられることもよくあります。
例えば土地建物を購入した側とすれば当然のこと建物の比率を多くしたいと考えます。法人税所得税では減価償却資産として経費となるし、消費税では仕入税額控除となるし、売却した側とすればその逆を考えることでしょう。
そこで誤った比率の算定方法によって税務申告をする側が提案し採用してしまったとすると税務調査で否認され多額の追徴課税を納税者に課せられてしまうなどということもあり得ます。
実務の中でもこの土地建物の価額を割り出す方法はいくつかあり、それらの価額の決定方法については納税者と課税庁が争う事例は多々ありますが、その中でも平成13年12月14日の福岡地裁での判決はかなり合理的なもののように思えました。
結論から言うとその価格の決定方法としては、特に中古物件の場合は土地建物の固定資産税評価額による方法が合理的であるとのことです。当然のことながらその価額は時価とはかい離したものであるのですが、今回問題となっているのはあくまで土地と建物の按分比率であることから、例えば財産評価基本通達をもとに土地について国税庁が算出した路線価を、建物については地方公共団体が算出した固定資産税評価額を基礎とした場合、算出機関算出時期がそれぞれ異なることから適正な価額比率を割り出すのには必ずしも適当とは言えず、同一の公的機関が同一時期に合理的な評価基準で評価した固定資産税評価額による価額比で按分する方法が最も合理的であるとされております。
もし税務申告をする側がこの比率をジャッジするのであれば、絶対とは言い切れませんがこの方法が一番妥当なのではないでしょうか。
ちなみに土地と建物の按分が終わってもそれでおしまいではなく、今度は、建物の中で更に建物にするか、建物附属設備にするかという問題があります。建物附属設備のほうが建物に比べて初年度から費用計上の額が多くなり、納税額も少なくなるということです。
これについても平成12年12月28日判決において建物と建物附属設備について明確な区分がなされていない場合に建物にすべて含めて減価償却費を計算したとする課税庁側の主張は採用されず、建物本体の取得価額を合理的な方法により建物本体及び建物附属設備に区分する「必要がある」という判断がなされています。
区分しなければ税務上否認されることも当然ないのですが、区分する「必要がある」という判決がでている以上、区分すれば税額も減るわけですから、「ざっくり30%を建物附属設備」なんてことをせず、同業他社からその価額を見積もるといったひと手間かける必要はありそうです。
そもそもこのようなトラブルを未然に防ぐためには日頃から契約書には土地、建物、建物附属設備の額を明記するようにアドバイスすることなのでしょうが・・・。
埼玉本部 菅 琢嗣
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