今回は、子会社等を整理する場合の損失負担に関する処理(寄付金に該当するか否か)について国税庁タックスアンサーを中心にまとめてみましたので御確認下さい。
以下に詳細を記載しておりますが、結論としては親会社側が損失負担することに関する経済合理性が認められるか否かが争点になります。言い換えれば、損失負担を行うだけの相当な理由がない場合は寄付金認定されるリスクが大きいという点に留意が必要になります。
No.5280 子会社等を整理・再建する場合の損失負担等に係る質疑応答事例等
[平成24年4月1日現在法令等]
いわゆるバブル経済の崩壊以降、子会社等の倒産等を防止するため又は整理するために損失負担、債権放棄及び無利息貸付け等(以下「損失負担等」といいます。)を行ういわゆる再建支援等事案が増加しています。
これらの事案にあっては、損失負担等を行う者(以下「支援者」といいます。)の損失負担等の額が税務上寄附金に該当するか否かが、支援者の所得計算に影響を及ぼすこととなります。
このため、再建支援等事案の損失負担等の税務上の取扱いについて、事前相談に応じているところです。
(寄附金課税の対象となるか否かの検討)
Q2-1
法人税法上の寄附金は、どのようなものをいうのですか。
A2-1
法人税法は、寄附金そのものについての直接的な規定を置かず、「寄附金の額」についての規定を置くことにより、寄附金を間接的に意義付けています。
【参考】
法人税法第37条
第1項~第6項省略
第7項 前各項に規定する寄附金の額は、寄附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもってするかを問わず、内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与(広告宣伝及び見本品の費用その他これらに類する費用並びに交際費、接待費及び福利厚生費とされるべきものを除く。次項において同じ。)をした場合における当該金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額によるものとする。
第8項 内国法人が資産の譲渡又は経済的な利益の供与をした場合において、その譲渡又は供与の対価の額が当該資産のその譲渡の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額に比して低いときは、当該対価の額と当該価額との差額のうち実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額は、前項の寄附金の額に含まれるものとする。
なお、過去の裁判において、寄附金について次のような判決があります。
1 寄附金とは、名義のいかんや業務の関連性の有無を問わず、法人が贈与又は無償で供与した資産又は経済的利益、換言すれば、法人が直接的な対価を伴わないでした支出を広く指称するものと解すべき(昭57.9.30 広島高裁松江支部昭56(行コ)1)。
2 法人が無利息貸付け等により経済的利益の供与をした場合、相手方からこれと対価的意義を有するものと認められる経済的な利益の供与を受けているか、あるいは、その経済的利益を手放すに足る何らかの合理的な経済目的その他の事情が存する場合でない限り、経済的利益相当額は、その法人の収益として認識される(寄附金課税の対象となる)ことになる(昭53.3.30 大阪高裁昭47(行コ)42))。
Q2-3
法人税基本通達9-4-1、9-4-2の趣旨は、どのようなものですか。
A2-3
法人税基本通達9-4-1、9-4-2は、次のとおりです。
【参考】
法人税基本通達
(子会社等を整理する場合の損失負担等)
9-4-1 法人がその子会社等の解散、経営権の譲渡等に伴い当該子会社等のために債務の引受けその他の損失負担又は債権放棄等(以下9-4-1において「損失負担等」という。)をした場合において、その損失負担等をしなければ今後より大きな損失を蒙ることになることが社会通念上明らかであると認められるためやむを得ずその損失負担等をするに至った等そのことについて相当な理由があると認められるときは、その損失負担等により供与する経済的利益の額は、寄附金の額に該当しないものとする。
(注) 子会社等には、当該法人と資本関係を有する者のほか、取引関係、人的関係、資金関係等において事業関連性を有する者が含まれる(以下9-4-2において同じ。)。
(子会社等を再建する場合の無利息貸付け等)
9-4-2 法人がその子会社等に対して金銭の無償若しくは通常の利率よりも低い利率での貸付け又は債権放棄等(以下9-4-2において「無利息貸付け等」という。)をした場合において、その無利息貸付け等が例えば業績不振の子会社等の倒産を防止するためにやむを得ず行われるもので合理的な再建計画に基づくものである等その無利息貸付け等をしたことについて相当な理由があると認められるときは、その無利息貸付け等により供与する経済的利益の額は、寄附金の額に該当しないものとする。
(注) 合理的な再建計画かどうかについては、支援額の合理性、支援者による再建管理の有無、支援者の範囲の相当性及び支援割合の合理性等について、個々の事例に応じ、総合的に判断するのであるが、例えば、利害の対立する複数の支援者の合意により策定されたものと認められる再建計画は、原則として、合理的なものと取り扱う。
上記通達の趣旨は、次のとおりです。
法人税の執行上、民商法重視の立場に立てば親子会社といえどもそれぞれ別個の法人ですから、仮に子会社が経営危機に瀕して解散等をした場合であっても、親会社としては、その出資額が回収できないにとどまり、それ以上に新たな損失負担をする必要はないという考え方があります。しかしながら、一口に子会社の整理といっても、親会社が、株主有限責任を楯にその親会社としての責任を放棄するようなことが社会的にも許されないといった状況に陥ることがしばしば生じ得ます。
つまり、親会社が子会社の整理のために行う債権の放棄、債務の引受けその他の損失負担については、一概にこれを単純な贈与と決めつけることができない面が多々認められるということであり、このようなものについて、その内容いかんにかかわらず、常に寄附金として処理する等のことは全く実態に即さないといえます。
また、一概に無利息又は低利貸付けといっても、そのことについて経済取引として十分説明がつくという場合には、子会社整理等の場合における損失負担等と同様に、常にこれを寄附金として取り扱うのは相当でないといえます。
そこで、そのようなものについては、税務上も正常な取引条件に従って行われたものとして取り扱い、寄附金としての認定課税をしない旨を明らかにしたものです。
Q4
平成10年6月、法人税基本通達が改正されましたが、従来の取扱いを変更したのではありませんか。
A4
法人税基本通達9-4-1及び9-4-2は、法人税法に規定されている寄附金に関する解釈通達です。
この場合の寄附金とは、法人税法第37条第7項において「金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与」とされてますが、その経済的な利益を供与することについて、経済合理性が存する場合には、単なる贈与ではありませんので、従来から、その供与した経済的利益の額は寄附金に該当しないものとして取り扱うこととしています。
このことについて従前の法人税基本通達では、その支援方法が無利息・低利融資である場合のみが示され、債権放棄や資金贈与が明示されていませんでしたので、これを明確にしたものです。
また、再建の対象となる「子会社等」には、子会社のほか、取引先、役員を派遣している会社、資金を貸し付けている会社等も含まれることとして取り扱っており、この点を明らかにしたものです。
さらに、「合理的な再建計画」か否かについての判断基準(支援額の合理性、再建管理の有無、支援者の範囲の相当性、支援割合の合理性等)を明らかにし、例えば、利害の対立する複数の支援者の合意により策定されたと認められる再建計画は、従来から、原則として、合理的なものとして取り扱っていたところから、この点についても明らかにしたものです。
これらの通達改正は、いずれも、従来からの取扱内容をより分かり易くするために明確化を図ったものであり、範囲を拡げたり、取扱いを緩めたりしたものではありません。
Q5
再建支援等事案の事前相談に係る検討事項の概要はどのようなものですか。
A5
再建支援等事案に係る検討項目及びその概要は次のとおりです。
Q2-4
子会社等を整理又は再建する場合の損失負担等が経済合理性を有しているか否かはどのように検討するのですか(合理的な整理計画又は再建計画とはどのようなものをいうのですか。)。
A2-4
子会社等を整理又は再建する場合の損失負担等が経済合理性を有しているか否かは、次のような点について、総合的に検討することになります。
1 損失負担等を受ける者は、「子会社等」に該当するか。
2 子会社等は経営危機に陥っているか(倒産の危機にあるか)。
3 損失負担等を行うことは相当か(支援者にとって相当な理由はあるか)。
4 損失負担等の額(支援額)は合理的であるか(過剰支援になっていないか)。
5 整理・再建管理はなされているか(その後の子会社等の立ち直り状況に応じて支援額を見直すこととされているか)。
6 損失負担等をする支援者の範囲は相当であるか(特定の債権者等が意図的に加わっていないなどの恣意性がないか)。
7 損失負担等の額の割合は合理的であるか(特定の債権者だけが不当に負担を重くし又は免れていないか)。
(注) 子会社等を整理する場合の損失負担等(法基通9ー4ー1)の経済合理性の判断の留意点
・ 上記2については、倒産の危機に至らないまでも経営成績が悪いなど、放置した場合には今後より大きな損失を蒙ることが社会通念上明らかであるかを検討することになります。
・ 上記5については、子会社等の整理の場合には、一般的にその必要はありませんが、整理に長期間を要するときは、その整理計画の実施状況の管理を行うこととしているかを検討することになります。
支援者にとって損失負担等を行う相当な理由
Q3-5
支援者にとって損失負担等を行う相当な理由があるか否かは、どのように検討するのですか。
A3-5
<共通> 支援者にとって損失負担等を行う相当な理由があるか否かは、損失負担等を行い子会社等を整理することにより、今後蒙るであろう大きな損失を回避することができる場合、又は、子会社等を再建することにより、残債権の弁済可能性が高まり、倒産した場合に比べ損失が軽減される場合若しくは支援者の信用が維持される場合などが考えられます。
損失負担(支援)額の合理性
Q3-6
損失負担(支援)額の合理性は、どのように検討するのですか。
A3-6
<共通> 損失負担(支援)額が合理的に算定されているか否かは、次のような点から検討することとなります。
1 損失負担(支援)額が、子会社等を整理するため又は経営危機を回避し再建するための必要最低限の金額とされているか。
2 子会社等の財務内容、営業状況の見通し等及び自己努力を加味したものとなっているか。
子会社等を再建又は整理するための損失負担等は、子会社等の倒産を防止する等のためにやむを得ず行われるものですから、損失負担(支援)額は、必要最低限の金額でなければなりません。一般的に、支援により子会社等に課税所得が発生するようなケースは少ないと考えられます。
支援金額が過剰と認められる場合には、単なる利益移転とみなされ、寄附金課税の対象となります。
なお、支援の方法としては、無利息貸付、低利貸付、債権放棄、経費負担、資金贈与、債務引受けなどがあり、その実態に応じた方法が採用されることになるものと考えられます。
更に必要最低限の支援ですから、子会社等はそれなりの自己努力を行っていることが通例であり、損失負担(支援)額は、被支援者等の自己努力を加味した金額となります。
この場合、どのような自己努力を行うかは、法人の経営判断ですが、一般的に遊休資産の売却、経費の節減、増減資等が考えられます。
★子会社支援等に係る判例、裁決例
■子会社支援損の否認(国税不服審判所・平成14年6月裁決)
子会社等に対する貸付金の債権を放棄し、その損失額を子会社支援損とした金額が寄附金に当たるか否かが争われた事案。
1)税務当局の主張
税務調査の際に、子会社に対する貸付金の債権放棄にともなう損失額を子会社支援損として損金参入していた金額を寄附金と認定した。
2)会社側の主張
子会社が銀行から債務超過解消を求められており、それができなければ審査請求人が銀行借入金の肩代わりをしなければならない状況の中、合理的な再建計画に基づいてなされたものであり、その負担をしなければグループ企業全体の信用収縮という重大な結果を招くことになり、寄附金には該当しない。
3)裁決
子会社は銀行から債務超過解消を求められていた事実は認められないと認定した上で、子会社自身の判断で請求人に債権放棄を要請していたこと、子会社が資金ショートにより倒産する状況にはなかったこと、貸付金の元本の返還猶予と金利の棚上げを行った場合とを比べてみても、子会社の資金効果は何ら異ならないこと、さらに子会社は自力再建が可能と認められることなどを理由にあげ、債権放棄が倒産を防止するためにやむを得ず行われたものであるとか、合理的な再建計画に基づいてなされたものとは認められないと判断し、寄附金に該当する。
■増資新株を利用した子会社支援(東京地方裁判所・平成12年11月判決)
A社は、子会社B社、C社を支援する形で多額の貸付けを行っていたが、両子会社の経営悪化により、貸付金が不良債権化していた。不良債権の処理を行い体質改善すべきとの取引銀行の意見もあり、A社は子会社を支援しつつ、不良債権化した両子会社への貸付金の処理をするため次のような方法を行った。
(a) B、C両子会社に増資をさせる
(b) B、C社の増資新株を額面金額よりはるかに高い額で引き受け、A社に借入金の返済をさせる
(c) A社は増資新株を他社に低額で譲渡し、株式譲渡損により当期発生が見込まれる4億円の利益を減少させた
1)税務当局の主張
(a)~(c)の行為は、当期において見込まれた4億円という利益を消去し、法人税の負担を不当に減少するための行為であり、増資新株の引受額算定に法人税法第132条を適用し、増資新株の払込金額と額面との差額は寄附金に該当すると認定した。
2)会社側の主張
(a)~(c)の行為は、子会社を救済する必要性、妥当性があり、合理的な行為であること、商法上額面金額が株の最低価額を示すものであること、また法人税法施行令第38条第1項第1号の「払込みにより取得した有価証券の取得価額はその払い込んだ金額としなければならない」という規定からも、税務署の処分は不当である。
3)判決
両子会社への貸付金それ自体が貸倒処理等により損金に算入できるか否かにつき、貸倒損失の計上や債権放棄を行ったことに関し、両子会社がまだ存在できる可能性をもっており、両子会社の財務状況や業態の将来的見通しから、貸付金の全額が回収不能に陥ったと認めることはできないとし、貸倒処理の損金算入は認められないとした。
また、(a)~(c)の行為は、「法人税の負担を不当に減少させる行為、計算」で「通常の経済人の行為として不合理、不自然な行為・計算」として、法人税法第132条(行為計算否認規定)が適用されると裁決した。
公認会計士・税理士 楢原 英治
記事のカテゴリ:税務情報